木戸と大久保の手法


木戸孝允と大久保利通は維新政府の二大巨頭である。

比較的リベラルな木戸に対し、大久保は中央集権への志向が強い保守派である。

政策上は相容れない部分が多かったが、互いに敬意を払い、相手をたてることにやぶさかでなかった。

下からの意見の具申に対し、大久保は「まず木戸に相談しろ」といい、木戸は木戸で「そのことは大久保は承知か?」といい、両者ともに譲り合う光景がよくみられたという。

二人の公明正大なる点は徹底しており、維新政府が薩長をもってしたものに過ぎぬといわれないよう細心の配慮をしていた。

部下に対する対応は二人の性格を如実に表している。

木戸は感心しながら聞いても、必ず自分の意見を加味して実行する。

大久保は部下の話を実によく聞く。

相手に十分話させたあとで、「それだけか?」 「もっとよい考えはないか?」 とさらに知恵を搾り出させる。

さいごに相手が「それだけです」というと、「よろしい」といってそのまま用いた。

これに関して、日本興業銀行総裁を務めた元薩摩藩士・高橋新吉の印象的なはなしがある。

あるとき国事について大久保を訪ねた、議員の高崎五六と同席した。

高崎は2、3時間にわたって滔々と自説を述べたのであるが、大久保は一言、「それだけですか?」と応じた。

高崎はさらに長時間、繰り返し巻き返し自説を述べた。

すると大久保はまたも「 それだけですか?」とのみ応じ、唖然とする高崎に「あなたの意見にはいいところもあるが悪いところもある。よく考えましょう」といって、返したという。

あまりにもそっけない対応に高橋が苦情を言うと、「こういう大事はあなたそう一朝一夕に決められることじゃなかろう」と答えたという。

辛抱強く相手の話を聞き、自説は述べず、本人に推敲させてさらによい結論を導き出そうとする冷徹な姿勢がうかがわれて興味深い。

伊藤博文や大隈重信が、木戸よりも、時間がかかっても自説を採用してくれる大久保に接近していったのは自然であったといえよう。

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