錬金術と幻想

avantrend / Pixabay


今や錬金術といえば利殖目的の不動産投資や悪徳商法を指すことが多いが、もともとは一般の物質を完全な物質に造り替えようとする技術を指した。錬は修練、鍛錬、錬成など、ねり、鍛えるという意である。

とくに中世のヨーロッパでは、「賢者の石」なる触媒を用いて、鉛などの卑金属を金などの貴金属に変えようと、錬金術師がこぞって挑んだのである。

賢者の石は水銀に硫黄や塩などを加えて造ろうとしたといわれるが、実際には完成しなかった。

しかしその試行の過程で、硫酸・硝酸・塩酸など、多くの化学薬品を始め磁器や火薬が発見され、その後の自然科学の進歩に多大な寄与をすることになった。

さらに錬金術は人間の霊魂をも「完全な」霊魂に造り替えるというほどの意味を持つようになり、高等な錬金術師は霊魂の錬金術により神と一体化して不老不死を可能とし、空を飛び天使と交流するとまで考えられるようになった。

その結果、錬金術は神が世界を創造した過程を再現する壮大な施術とあがめられるまでになった。

ホムンクルスのように、フラスコのなかで無生物から人間を造りだそうとするような信じ難い試みも、その延長線上にある。

ところで有機水銀は毒性の強いことで知られるが、なかでもメチル水銀は水俣病にみられるように、脳神経系への影響が甚大である。

一方、無機水銀である硫化水銀は毒性が低く、赤色結晶の辰砂(しんしゃ)として産出され、古代から「朱」として顔料に用いられたほか、中国では幻の妙薬・金丹の原材料とされた。

辰砂の鮮やかな朱が血液を連想させたとも、辰砂を加熱すると硫化水銀が還元されて水銀が生じ、水銀に硫黄を反応させると辰砂に還るという現象に永遠性を認め、不老不死に結びついたともいわれる。

中国における練丹術はこの辰砂(硫化水銀)に水銀、鉛、ヒ素化合物などを調合したもので、金丹あるいは仙丹と呼ばれ、不老長寿の霊薬とされたが、じつは極めて毒性が強い。

西洋の錬金術とよく似ているのは、起源が同じインドの錬金術だからといわれる。

中国古代の民間信仰・神仙思想は仙人となって不老不死をめざすものであるが、唐の皇帝のうち少なくとも6人が仙人となることを夢見てこの金丹を服用し、水銀中毒となり落命したという。

こうしてみると、ヨーロッパは金を造るのに熱中したのに対し、中国は不老不死を追い求めたといえる。

どちらも見果てぬ夢であった。

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