ツバメ問答


今年もツバメが飛来した。我が家の軒下にもやってきてガヤガヤとかまびすしい。すでに30年来の風景である。

古来、ツバメは稲の害虫を退治してくれる益鳥と教わってきたうえに、森の中に巣をつくらず、人家の軒下に居を構えるため、他の鳥たちより、親しみが増すのは当然である。

しかし彼らがヒトに馴染んでいると思うのは勘違いで、本当は、ヒトを利用して敵からの攻撃を免れようとしているというのが事実だろう。

下から見上げると、盛んに親ツバメが行き来して、子ツバメに餌を食べさせている。たまに目が合うと、怪訝な目でこちらを見ている。

お前は去年来た親ツバメかい?それともここで生まれた子ツバメかい?思わず問いかけたくなる。

いったい、どうしてここが気に入ったのか。世間に軒下などいくらもあろうに、わざわざ去年と同じ場所をめざして、ここにやって来たのかね?

いや、どうもそれは単なるこちらの思い過ごしかもしれない。

足輪をつけて調べた報告によると、親ツバメ240羽のうち、翌年戻ってきたのは54羽(22.5%)だったという。そのうち、同じ巣に戻ったツバメと、違う巣に戻ったツバメは、ほぼ同数だったらしい。

どうも、必ずもとの巣をめざすとばかりはいえないようだ。

一つはっきりしていることがある。

我々人間は不意をつかれて命を奪われるということがないが、彼らは始終、ヘビ、ネコ、スズメ、カラスなどに命をねらわれている。敵の襲撃を回避でき、食料が無事に手に入るなら、10年は命を全うできるが、多くは無念の死を免れない。

翌年戻って来たくても、餌にありつけず餓死したか、天敵に襲われ落命して戻れなかったツバメの数は、予想以上に多いかもしれない。

それにしても、なぜ4千kmも離れたフィリピンやマレーシアなどからわざわざやってくるのかと問われれば、たんに食糧難のためという以外にないだろう。この時期、かの地では餌になる昆虫は食べ尽くされ、生き残るのが大変である。

かといって、これだけの大遠征もまた命がけである。よくぞここまでたどり着いたと、ねぎらってやりたい気になる。

聞くところによると、彼らは日本への遠征時、太陽の位置を目印に一日300kmを低空飛行するという。興味深いのは、彼らは集団行動をしないばかりか、家族移動もしないらしい。

まず、雄のほうが先に出発し、数日遅れて雌があとを追うことが多いという。真意は本人にしか分からないが、敵の襲撃による犠牲を最小限にとどめたいということだろうか?

しかし、雌ツバメさんよ、かならず、夫のもとへ辿り着ける自信はあるのかね?

方向音痴のツバメだっているだろう。到着が遅れたため、すでに夫が別の雌と所帯を持ってしまってはいないだろうか、などと懸念してみても、雌ツバメからは全くの杞憂にすぎぬと一笑に付されそうだ。

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